12. 遺伝子と行動
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1. セントラルドグマ
「氏か育ちか」
19世紀のゴールトン(Galton,F.)は遺伝の影響を強調
名声を得た人を多く輩出する特定の家系があることに着目
行動主義者ワトソン(Watson,J.B.)は環境の影響を強調
学習の手続きによって子どもをどんな職業の人にでもしてみせると述べた
現在では、どのような行動や精神機能であれ、遺伝と環境のどちらも及んでいると考えられている
DNA(デオキシリボ核酸)
遺伝情報の実体で、細胞の核の中にある染色体に含まれている
mRNA(メッセンジャーRNA)
DNAが含む情報の一部を写しとったもの
mRNAの情報をもとにタンパク質が合成される
転写(transcription)
DNAからmRNAへと情報が写し取られること
翻訳(translation)
mRNAの情報をもとにタンパク質が合成されること
セントラルドグマ
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遺伝情報の流れに関する原理のこと
どのような生物も遺伝情報はこの転写と翻訳という過程を経てタンパク質合成へと進むという点で共通する
一部のウイルスではmRNAの複製が生じたりmRNAからDNAへの逆転写が生じたりする場合がある
つまり、私達が親から受け継いでいる遺伝情報は、タンパク質の構造(アミノ酸配列)に関する情報ということになる
2. 染色体とDNA
人間は約60兆個の細胞でできており、大部分の細胞には46本の染色体が含まれている(精子や卵は23本)
46本のうち23本は父親の精子から、23本は母親の卵から受け継いだもの
受精卵が細胞分裂を繰り返して一人の人間になるわけであるが、細胞分裂に先立ち染色体の複製が行われるため、一人の人間を形成する60兆個の細胞に含まれる染色体は、どの細胞も同じ組み合わせのもの
染色体は細胞の核に存在してる
ヒトの染色体 46本
常染色体 44本
男女にかかわらず共通に有している染色体
長い方から番号が付けられている(第1染色体 ~ 第22染色体)
性染色体 2本
男女間で組み合わせの異なる染色体
X染色体とY染色体
XX: 女
卵はすべてXになる
XY: 男
精子はXかYかどちらか
個体の性決定は受精のとき
卵に最初に到達した精子がXとYどちらを持つか
染色体の構造
遺伝情報を含むDNAと、DNA分子が巻き付いているタンパク質(ヒストン)からなる
DNA(デオキシリボ核酸)の構造
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DNAヌクレオチドという物質が一列につながってできたもの
ヌクレオチド
糖
デオキシリボース
リン酸
塩基
アデニン(A)・シトシン(C)・グアニン(G)・チミン(T)のいずれか
デオキシリボースを塩基と結合している部分の炭素(C)を1番として1'と表記し、連なる炭疽を順に2', 3', 4', 5'と表記する
リン酸ジエステル結合(ホスホジエステル結合)
DNAヌクレオチドが一列につながるとき、5'の部分と隣のDNAヌクレオチドの3'の部分が結合する
1列につながったDNAの両端のヌクレオチドだけは結合相手がいないため、5'末端および3'末端ができる
DNA分子には向きがある
遺伝情報は5'→3'で読まれる
塩基配列
ヌクレオチドが一列につながるということはそれぞれに含まれる塩基の並びが生じるということ
DNAは二本鎖でらせん構造を有している
向かい合ったDNA分子の内側にそれぞれの塩基が相対する形となっており、塩基同士が水素結合している
各塩基の結合相手は決まっている
アデニン(A)-チミン(T)
シトシン(C)-グアニン(G)
3. RNAからタンパク質へ
遺伝子
各タンパク質の構造(アミノ酸の配列)を表す情報単位のこと
人間では約2万2000個の絵遺伝子があるとされる
1つの遺伝子をコードしているDNA部分から必ずしも1種類のタンパク質のみが合成されるとは限らない
スプライシング過程でのエキソンの組み合わせの違いによって異なるタンパク質が合成されることがありうる
生殖細胞を除くすべての細胞は同一の染色体の組み合わせが含まれる
どの細胞においてもすべての遺伝子という設計図が含まれている
遺伝子発現
どの遺伝子から実際にタンパク質がその細胞で合成されるかは、細胞の種類やそのときの細胞の状況によって決まる
プロモーター領域
アミノ酸構造の情報を含むDNA部分よりも5'側(上流)にある、その状況を感知するDNA部分
プロモーター領域と細胞内状況との相互作用によってタンパク質合成がされるかどうかが決まる
転写
下流領域(3'側)にコードされているタンパク質を発現する引き金となる信号が到達したら、酵素の働きによりDNAヌクレオチドの並びを鋳型としてRNA(pre-mRNA)へと転写される
RNAの構成単位はRNAヌクレオチド
DNAヌクレオチドとの構造上の違い
塩基にチミンがなくウラシルが加わる
糖の部分がデオキシボースではなくリボース
RNAは一本鎖
pre-mRNA(mRNA前駆体)
最初にDNAからRNAへと転写されてできた一次転写産物はエキソン部分もイントロン部分もそのまま転写されている
エキソン
アミノ酸配列が符号化されいてる部分
イントロン
アミノ酸配列情報が含まれない部分
スプライシング
イントロ部分が切り出され、エキソン部分だけがつなげられたRNA(mRNA, (成熟mRNA))が作られる
翻訳
mRNAは核外に出て、リボソームでその塩基配列が順次5'から3'の方向に読み出される
rRNA(リボソームRNA)
核の外でタンパク質合成に関わるリボソームの一部を形成する
コドン(トリプレットコドン)
アミノ酸情報は塩基の3つの一組で符号化されている
$ 4^3=64なので20種類のアミノ酸を含めるには十分
遺伝暗号表
1960年代にこの塩基の3つの並びとアミノ酸との対応関係が明らかにされた
ペプチド結合
コドン単位で次々とそれに対応したアミノ酸がtRNAによって運ばれ数珠つなぎされ、タンパク質が作られていく
tRNA(トランスファーRNA)
mRNAの塩基配列に従って適切なアミノ酸を一つずつリボソームにもたらうす
例:UUU→UCU
UUU: フェニルアラニン(Phe)というアミノ酸がtRNAによって運ばれる
UCU: セリン(Ser)というアミノ酸がtRNAによって運ばれてきて、先程のフェニルアラニンとセリンが結合(ペプチド結合)する
終止コドン
タンパク質合成を終了する合図となるコドン(UAAなど)
ヒトゲノムプロジェクト(ヒューマン・ゲノム・プロジェクト)
2003年に終了、2004年に結果の修正版
ゲノム(genome)
ある動物種の遺伝子1セットをまとめて呼ぶ言葉
私達は父親から1ゲノム、母親から1ゲノム受け継いでいる
ただし、前述のようにDNAに含まれるすべての遺伝情報がタンパク質へと合成されているわけではなく、実際に遺伝子が発現するかどうかは細胞内外の環境に大きく左右される
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今後は遺伝子発現調節機構の解明が重要な研究テーマになってくるだろう
4. 生理心理学における分子生物学的手法
分子生物学的手法を用いて、タンパク質レベルので変化が行動に及ぼす影響を調べる研究が1990年代以降盛んに行われている
遺伝子改変動物
トランスジェニック動物
もともとその動物がもっている正常な遺伝子に加えて新たに外来遺伝子を導入した動物のこと
ノックアウト動物
その動物が本来持っている遺伝子の一部を破壊した(ノックアウトした)動物のこと
これらの動物の行動を野生型の行動と比較することにより、ある特定のタンパク質の機能を明らかにしようとするアプローチ
これにより、タンパク質単位で動物の行動との対応が調べられるようになった
ノックアウト動物を用いた実験の問題点として以下の点が指摘された
胎生致死
重要なタンパク質を欠損させた場合に動物の生命に関わることがあり、そもそも生まれてこない
代償機構
あるタンパク質を欠損させた際に別のタンパク質がその代わりを果たしてしまう
部位特異性の欠如
ある特定の脳部位に関してだけ遺伝子改変を行うことも当初はできなかった
現在ではこれらの問題はかなり克服された
コンディショナルノックアウト動物
部位特異性や時期特異性をもたせる工夫をした遺伝子改変動物
部位特性に関して
プロモーターを工夫することによってある遺伝子改変操作がある特定の細胞環境でのみ生じるようにしたもの
時期特異性に関して
テトラサイクリン(またはドキシサイクリン)という物質の経口摂取を動物にさせたりさせなかったりすることで遺伝子改変操作のオン・オフができるという技術
ウイルスベクター
生きている動物にウイルスベクターを用いて後天的に遺伝子導入する方法もある
ベクター
遺伝子を運ぶ運搬者という意味
ウイルスが本来持つ遺伝物質の代わりに、実験者が発現させたいタンパク質の情報をもつDNAなどに組換えたウイルスを動物の脳に局所的に注入して感染させると、感染した細胞においてその遺伝子が発現することになる
神経細胞に感染効率のよいウイルスベクター
アデノ随伴ウイルス(アデノ随伴ウイルスベクター)
レンチウイルス(レンチウイルスベクター)
6. 記憶の座と記憶痕跡の光遺伝学を用いた記憶痕跡研究は、マウスの遺伝子改変とウイルスベクター導入とを組み合わせた研究の例
→13. 意識と脳